ホンダ オデッセイ フロントフェンダーのならし鈑金 <2008年4月>
入庫時の状態
今回はオデッセイのフロントフェンダーのならし鈑金をご紹介します。
車の状態は、右前の衝突でフードとフェンダーが凹んでしまいました。フェンダーはフードとの境目が凹み、ホイールアーチの上はプレスラインから折れ曲がるような形になっています。
フードもエッジから折れてしまいました。
フードはケミカルプーラーでフェンダーは均しでやってみます。
ならし板金
ならし板金の写真が一枚もないので、すでに板金が終了したところになってしまいました。
作業の流れはホイールアーチの折れたプレスラインを裏から押し出して、ラインの復元が終わったらその他をヤスリハンマーでならすだけ、と文章ではそれだけなんですが、この場合は逆アールなので力加減が通常とは少し変わってきます。
自動車の外装パネルは外側に向かって膨らんだ曲面で形作られていることが多く、ブリスターフェンダー等は極端なアール(曲面)になっていたりします。
逆に車体の内側に向かって凹んだアール(曲面)になっている場合を鈑金屋さんは「逆アール」とか「ネガアール」とか呼んでいますが、ならしが難しくなりがちな形状です。
今回のオデッセイはフロントフェンダーの裏に手が入りやすいので当盤を動かしやすく、逆アールでも歪みはホイールアーチによるもので伸びのほとんどない無い変形なので、見た目ほど難しくはありません。
逆アールで難しいのは鋼鈑の伸びた塑性変形の場合です。
逆アール形状ではパネルの形状変形を起こさない範囲で適正な力を正確に伝えないといけない微妙な力加減が必要だと思っていて、私も上手くできませんが、それ以外にも目に見える凹みの大きさと衝撃の違いに惑わされてしまうことも修理を難しくしているのかもしれないと考えています。
見た目の凹みの大きさが同じでも衝撃の大きさが違うことで修理方法が変ります、たとえばエクボのような凹みを修理する場合を例にしてみます。
普通のフェンダーのアール形状に1センチのエクボがあった場合と、逆アール形状に1センチのエクボができた場合とではエクボに加えられた力はかなり違います。
どのくらい違うのかを想像するのに、乱暴ですがペットボトルで例えてみます。
ペットボトルは柔らかくクシャクシャと簡単に変形しますが、ほとんど伸びない素材で、形状で強度を保っています。
ペットボトルの表面を外側から指で押してエクボを作ってみると、小さな力でもエクボが作れると思います。これはペットボトルが伸びたわけではなく形が変わっただけです。
逆に、ペットボトルの内側から同じような膨らみを作ろうとしても伸びない素材のペットボトルでは熱を使わないと膨らみを作るのは難しいと思います。
伸びにくい極端な素材を例にしましたが、これが PET でなくアルミ缶であればどうでしょう、飲み終わったらクシャクシャにつぶせるビールの缶を、逆に内側から膨らませるとすると、どれほど強い力が必要か想像できると思います。
外から指で押した凹みは内側からもう一度押せば元にもどりますが、内側から熱を使って膨らませたり、強い力で伸ばして膨らませた膨らみは外から押しても元にはもどりません。
同じような大きさの凹みであっても、元の形状によって塑性変形と弾性変形の違いが生まれています。
そういうわけで、見た目は小さなエクボに見えても絞る必要のある凹みであったり、大きな酷いひずみに見えても簡単に直せる場合があります、絞りの方法については、いろいろな要素が関係して一概にいえないので限定しませんが、絞りが必要な作業だとわかれば叩き方も変ってくるかもしれません。
さて、話が長くなるのでこの辺で作業を先にすすめます。
先に書いた通り、このフェンダーの変形は伸びのほとんど無い変形なので、作業面積の割に鈑金はさほど難しくありません、プレスラインを復元すれば自然と修復できる面がほとんどです、ホイールアーチが終われば、フェンダーの先端もウインカーの下から手が入るので細かく均しておきます。
均し板金が終わったらフェザーエッジを作ってサフェーサーの準備をします。
パテなしで仕上げ
プレスラインを修正して均し鈑金をしましたが、今回は板金パテは使わなくても大丈夫なので、フロントフェンダーにサフェーサーを入れたらフェンダーは終了です、続いてフードも修理しておきます。
塗装
フードとフェンダー以外にも修理する箇所があったのでルーフ以外すべて塗っています。
完成
均し鈑金の作業写真がなかったので、薄い内容を補うつもりで逆アールについて書いてみましたが、なんとなく作業中に頭で考えていることを文章にしたり、図に描くことは、自分の理解が深まって意外とおもしろかったです。
しかし、書きながら自分が誰に向かって、どの目線で書いているのか、なんとも曖昧だったんですが、そう、そう、思い当たりました。
バラエティ番組の「名車再生!クラシックカーディーラーズ」です、放送を観たのはフェアレディZの回とかレストアの回など数台分を観ただけですが、マイクの無茶振りと修理担当エドがささやかなこだわりを見せる作業はかなり好感を持って観ていました。
ボディを切継ぎする時にエドがどの辺りで切るのか、もし自分ならどこで切るのかを考えながら見るのも楽しかったです。しかし、エドの作業は結構好きなんですが、あいつはすぐ地べたに座りますね、ディーラーで厳しく躾けられた人なら「あっ!コイツ地べたに座りやがった」と感じると思う。
エドに限らず海外のレストア番組だと工場の床にそのまま座り込んだりするシーンがよく目に付きますが、誰かに怒られることも無く、車を預けたユーザーもそんなことはあまり気にしないんでしょうね。
そんなエドがオーナーというか視聴者に向かって作業のポイント等を解説したりしているところが印象に残っているので、そんなところを真似をしているんだと思います。
旧サイトでも交換した場合と修理した場合の費用の違いについて書いていたので、その辺も番組と重ねているのかもしれません、DIY を啓蒙すると仕事になりませんが。
エド・チャイナ風に「ご自分で均し鈑金すれば 〇〇ポンド の節約になります」と書きたいところです。