R32 GT-R ジャッキポイントの修復と補強
潰れたサイドシルの補強はどうする?
ジャッキポイントは一度潰れると脆い
前回は「 R33 GT-R のサイドシル修理」をご紹介しましたが、ジャッキポイントの修理記事はとてもアクセスが多いので今回もジャッキポイントの修復をご紹介します。
お車は R32 GT-R で以前に掲載した「R32 GT-R ジャッキポイントの修理」と作業範囲は似ているのですが以前の修理と比べて補強の方法が変わっていますので今回は補強についてご紹介したいと思います。
損傷の程度を確認
R32 スカイラインのジャッキポイントは大体潰れていて、潰れ方も大体同じです。
サイドシルの内側に巻き込むようにフロアも一緒に潰れているはずですがサイドシルプロテクターが付いているので外からは見えません。
下からのぞき込むとグシャッと潰れたジャッキポイントが見えます。
右フロントのジャッキポイントにはシーリングのようなモノがたっぷり付いているのでシーリングの下では穴が開いているかもしれません。
プロテクターを外してみます。
右フロアのアンダーコートを剥がしてみます。
フロアがどの程度潰れているのか車内から確認してみます。
マイクロスコープでサイドシル内を確認
目印を入れていないのでどちらが上か分かりにくいです。
サイドシルの形状を確認
R32 のサイドシル下側はシンプルな形なのでを計測するまでもないと思うのですが、一応型紙を出力しておきます。
切開してからフロアを修復
潰れたジャッキポイントにボディクランプを取り付けて引っ張り出したいのでサイドシルを先に切開します。腐っているわけではないのでインナーパネルの補強等の作業がやりやすい範囲で切り取っています。
以前の修理ではフェンダーも外さずに作業をしましたが、潰れた個所を修復して補強を入れるためにはフェンダー下まで切開する必要があるので今はフェンダーを外して作業します。
右も左も潰れ方は似ていて、サイドシルの内側のフロア側面パネルが折れ曲がってしまっています、丸く膨らんでいるところは本来は平らになっているのですが下からの圧縮する力に負けてしまったようです。
折れ曲がったパネルを引っ張り出しながらフロアパネルの修復を行います、側面パネルもある程度は延びて平らになりますが一度曲がったパネルは曲り癖が付いてしまって強度が足りないと思います。
構造はシンプルで平板一枚を交換するだけなので側面パネルも切り取って交換することにします、加えて縦方向の力に強くなるように補強の為にアングルブラケットを作って取り付けます。
サイドシルにボディクランプを取り付け
ボディクランプで掴む場所を作るためにバイスプライヤーでパネルの皺を延ばしているところです。
ボディクランプで掴むとパネルが傷むので注意が必要ですが、今回は切り取って交換するので直接がっつり掴むことができます。
下に引っ張り出してフロアの修復
サイドシルのインナーパネルは新たに作るので、ここで修復するのはフロアです。
フロアが元の形に戻るまで引っ張り出します。
インナーパネルの切り取り
フロアの形が復元出来たらインナーパネルを切り取って新たなパネルの取り付け準備をします。
ジャッキポイント付近は2枚パネル構造で頑丈そうに見えますが、実際は切り欠きがあるために1枚パネルでしか構成されていません、毎回不思議に思う謎の構造です。
画像で室内が見えているのは室内側まで切り取ったわけではなく元々の形がこうなっています、ここはジャッキポイントの上部にあたり、大体のスカイラインがこの謎の切り欠きまで潰れています。
そして今回のお車は左のサイドシルの切り欠きの先、画像で丸印をした所、2枚のパネルが重なったところが腐食して穴が開いていました。
オレンジの線は切り欠き個所を表しています。
アングルブラケットとインナーパネルの取り付け準備
インナーパネルは平板の鋼板を取り付けるだけなので特に何かを作る必要はありません、次は補強用アングルブラケットの形を考えます。
圧縮する力を受け止めるようにアングルブラケットをサイドシルの下から上まで入れてみます。側面パネルが横に膨らんでサイドシルが潰れることを防止しようという魂胆です。
サイドシルの底面にブラケットの底面を付けるか浮かすか迷いましたが、パネルを安易に接触させるとサビを呼ぶので今回は少し浮かしてあります。
浮かせた場合サイドシル自体に強度はないのでジャッキがサイドシルに直接当たらないように工夫しなければいけませんが、その加工は最後に行います。
アングルブラケットは 1.2mm インナーパネルは 1.6mm で作ります。
インナーパネルの溶接
アングルブラケットの形が決まったところでインナーパネルの交換を終わらせます。狭くて見にくいですが切り取った場所に新たな 1.6mm の平板を差し込んだところです。板厚は元が 0.8mm なので倍の厚みになっています。
取り付けたパネルに乱雑に引いた赤いマジックは落書きじゃなくて、溶接前に防錆する範囲が判るように付けた印です。
アングルブラケットの加工
インナーパネルの溶接が終わったのでアングルブラケットを作っていきます。
サイドシルは左右共に同じような作業をするのでブラケットも2個作ります、ブラケットは切り出したパネルを曲げるだけなので、まず切り出し用にパネルをケガキます。
ただ2枚とも寸法を測りながらケガくのは面倒なので下絵を出力してからケガくことにします。
用紙をパネルの上に置いて基点をポンチで打ち込んでからポンチ痕をつないでケガくこともできますが、今回は下絵の上にパネルを置いてガイド線を写し取る方法でケガキます。
これなら同じ精度で簡単に複数枚作れますが、板取で少々無駄が出ます。
【ケガキ針】 超硬チップや鋼でできた鋭利な先端を持つペンのこと/鉄板にキズを付けることが目的/曲げ加工では影タガネの印となるので重要/ついつい目打ちやキリの様に使って先端を折ってしまうことがある
アングルブラケットの溶接
作ったブラケットを車に合わせてみます。
サイドシルの中にアングルブラケットを溶接できたら内部を防錆してインナーパネルの修復は終了。
次はサイドシルアウターの切開したところを塞ぎます。
サイドシルパネルの加工
シンプルな形なので曲げ加工だけで大丈夫でした。ただ一ヶ所フェンダーを取り付ける段差は一枚で作る場合は絞りが必要なので炙っています。
こんな形なので最初に用意した型紙の出番はありませんでした。
サイドシルの溶接
左のサイドシルは大きく凹んでいたので溶接前に均し板金で修理してからパネルを合わせます。
車に合わせてみて位置を調整したら溶接します、サイドシルパネルは差し込み溶接でフランジ部分はスポット溶接を行います。
ハンダ仕上げ
溶接跡を削り取ったらハンダで仕上げます。
【ハンダ盛り】 板金用の棒ハンダを鋼板に盛り付けて表面を平滑にする充填法/写真の上から・紙ヘラ ・ガストーチ ・棒ハンダ/ハンダを鉄板に盛り付けるためにはフラックスが必要/フラックスは塩化亜鉛の水溶液か板金用フラックスを用いる
【紙ヘラ】 ハンダを盛り付ける時に使うヘラ/本当は紙ではなく繊維板とかハードボードと言われる木材チップを圧縮した板/ドアの内張やスペアタイヤボードの流用/油を染み込ませてから使う/使い込むと最後は燃えてなくなる
【ハンダを削る道具】 写真の上から・フレキシブルヤスリホルダー(波目ヤスリ付き)・鋸刃 ・波目ヤスリ(替刃)/一般的な鉄工ヤスリは向かない/ペーパーでは切削力が足りなくて力不足/波目ヤスリは色んなサイズがあると便利
サイドシルの底は逆さまなのでヤスリで削るのも力が入らなくてあまり好きではありません。
サフェーサーを吹いてフェンダーの調整
フェンダーの取り付けグロメット付近も凹んでいたので修理をしました。
サフェーサーを吹いたらフェンダーの建付け調整をします。
フェンダーの建付け調整の時にフェンダー取り付けのグロメットを新品に交換しました、古いグロメットでは締め付けが甘くなったりしますが、新品だとガッチリつきます。
サフェーサーも終わり、建付け調整も終わり、フロアの裏側も防錆処理をしました。
一般的な車載工具(パンタグラフジャッキ)を使った時にサイドシルのアウター側に直接ジャッキが当たらないようにしたいので、高さ調整とフランジの曲り防止の為にアングルをフロア側に仕込んであります。
最後に内部の防錆
外側が終わったのでサイドシル内部の防錆を行って終了です。
【ジンクコート】 みんな大好き常温亜鉛塗料のこと/イオン化傾向の大きな亜鉛が犠牲となって鉄板を守ってくれるサビと戦う人の強い味方/茶色いところには大体吹き付ける/上塗りができないという弱点が存在する
手探りでノズルを差し込んで狙いを付けてジンクコートを吹いていますが、中々狙ったところに塗ることが出来ずにやり過ぎてしまいます、ジンクコートを付けすぎて悪いことはないと思いたい。
完成
アンダーコートを吹いてから塗装をして終了となります。
実際の作業ではジャッキポイントはリア側も修復したりしているのですが、今回はフロント側のみをご紹介しました。
サイドシルプロテクターを取り付けてしまうと作業したところは隠れてしまいますが、いままでは見えなかったジャッキポイントが微かに見えています。
ジャッキポイントやサイドシルの修復はスカイラインに限らず多く持ち込まれますが、事故の凹みを修理する場合は表面だけで済むこともありますが、潰れたジャッキポイントを修復する時は内部から修復しなければいけないので、今回のような「切開+切り継ぎ」が必要になります。
では、また次の記事でお会いしましょう。