メルセデス・ベンツ 190E ドア下のサビ修理
サビを塞ぐか、サビを防ぐか。
W201のドアの構造
ボディの下部は飛び石や凍結防止剤などの影響でサビが発生しやすいですが、ドアの下やサイドシルは水の通り道となっているので内部からもサビが発生しやすく、またサビを発見しやすい所でもあります。
今回は 190E のドアの錆を修理します。
錆はドアの下、ウェザーストリップの周囲に発生しているそうです。
どのような状態なのか確認してみます。
汚れなのか、錆なのか、よくわからないところもあるので、拡大して診てみましょう。
ドアを下から見たところですが、水抜き穴の左側にサビがあります。これはドアのアウターパネルとインナーパネルを繋いでいるスポット溶接の位置で、スポット溶接の周囲からサビが広がっていることが判ります。
ウェザーストリップを外して、中を確認してみましょう。
インナーパネルが山型に窪んでいますが、この窪みはスポット溶接のアームが入る為のものです。ウェザーストリップを外してみると、スポット溶接の2箇所からサビが発生していることがわかります、スポットからの錆と言うことは接合面でサビが発生しているということで、内部はもう少しサビが進行していそうです。
インナーパネルの端面を浮かせて見てみましたが、その他のスポットからはまだサビは出ていないようです。さて、おおよその状態がわかったので修理プランを考えてみます。
W201に限りませんが、この頃のベンツのドアは一般的な国産車とはちょっと違う構造をしています。アウターパネルの接合方法だけで言うと、アウターパネルが大きくドアの下を覆うようになっていて、下から回り込んだ先のウェザーストリップの位置でスポット溶接でインナーパネルと繋がっています。
文章ではわかりにくいので断面図で説明してみます。
最初見たときは何でベンツは普通のドアと違うのかわからなかったのですが、よくよく見ると「ははぁ、なるほどなぁ」という構造をしています。
まず、一般的なドアから見てみると、アウターパネルとインナーパネルはドアの端でヘミング加工によって接合されていて、その為にパネルがアウターインナーアウターと3層に重なっているところがあります。
一方、190のドアはスポット溶接で接合されていて、その接合部のパネルは2層、さらに端面は開放されています。重なりが少なく、さらに端面が開放されていることが防錆の面でとても有利に働きます。この開放された構造があのベンツのドア内部に塗られたベタベタ防錆ワックスの効果を存分に発揮させるのでしょう。
さらに両者は水抜きの穴位置も大きく違っています。一般的なドアはヘミング加工の上付近に穴が空いていることが多くありますが、190の水抜き穴はドアの最下部にあります。点検時の画像をもう一度見ていただくとわかりますが、水抜き穴はドアの最も低い位置にあり、サイズも大きな穴が設けられています。
これはとても大きな違いで、一般的なドアの構造では水抜き穴の下にヘミング加工がある為、水抜き穴へ流れなかった水は常にヘミング加工付近に留まることになります、実際乾きにくく、水が溜まったままになっていることが多くありますし一般的なドアの下部が腐るのはほとんどがこのためです。
一方の190の水抜き穴は接合面より下になるように段曲げ加工された位置についています、つまり接合面に水が溜まりにくいような構造になっています。「ははぁ、よく出来ているなぁ」と思いましたが、本当にそのつもりで設計されているのかは不明ですし、今現在のベンツがどうなっているのかも不明です。
さて、構造的に防錆が容易になっているのなら、その利点を生かした修理プランを立てることにします。
ドアパネルの作製
実際、この程度の錆であればサンドブラストをして上から塗ってしまえばドアの下部だし、目立たないし、それでも良いよと言われるお客様もいらっしゃると思います。しかし、このお車はとても程度が良いのです。しかも「綺麗に仕上げるように」と指示をいただいています。これだけキレイなお車で錆に蓋をするだけの修理では綺麗な仕上げとはいえないので、錆に蓋をして塞ぐのではなく、錆を断ち錆を防ぐ為の切継ぎで修理することにします。
毎度のことですが、切り取る前にパネルを作ってみます。
アウターパネルは段曲げするだけなので図面とかもなく曲げていきます、インナーパネルはどうなるのか判らないのでパネルを用意するだけにしておきます。
車両に合わせてみたところ、段曲げの位置も大丈夫そうなのでドアを分解していきます。
w201とかになると、ドアの内装もやれてきたり、割れてきたりするものですが、全くの無傷でした。スクリーンもきれいな状態。不具合といえば画像でも見えるドアの内側に塗られた防錆ワックスが硬化していてあまり機能していないという程度。防錆剤はたぶん機能していないし今後の切継ぎの邪魔になるので防錆ワックスをきれいに落としてから作業を進めます。
錆びた箇所を切断
パネルの状態を内部からも確認したので切継ぎ位置を確認します。先ほどの断面図を使ってみてみます。インナーパネルはスポット付近だけ切り取れば大丈夫だと思います、アウターパネルはスポット2箇所分まとめて切継ぎします。
切断にはミニグラインダーを使います。
今回も当然裏当てなしの突合せ溶接でやる予定なので、切断したところにそのまま溶接できるように注意して切断します。インナーパネルは片方のスポットのみが腐食していて、もう片方はとてもきれいな状態でした。
インナーパネルの山型のくぼみはベルトサンダーで削り取ってしまいました。
さて、切り取ったパネルに合わせて自作のパネルを調整していきます。
溶接
インナーパネルの切継ぎ箇所は小さいので現物で合わせながら作ってそのまま溶接してしまいます。
さて、いよいよ溶接なんですが、はい。
溶接が終わったところになってしまいます。
サイズも小さいし、溶接の歪みも出にくい形状なので、つけ始めたら写真を撮る前に終わってしまいました。
インナーパネルはこんな感じに仕上がりました。あと、スポット溶接の付いていた位置はパネルボンドでつけてあります。
今回も接合面は常温亜鉛メッキ塗料を塗ってあります、また塗装の後にはあの”ベタベタ防錆ワックス”を大量に噴霧しておく予定です。
防錆と塗装
まずはドアの内部の塗装と防錆をやっておきます。
この後の防錆ワックスの写真がありませんでした。あの防錆剤は暑い日とか水抜き穴から垂れてきたりしてサイドシルを汚したりするのでちょっと苦手です、垂れたものもベタベタしていて埃を呼んだりしてさらに車体が汚れてしまいますが、まぁ垂れてくるものがあるうちは防錆剤の役割を果たしてると考えるとよいかも。汚れるのはやはり嫌だけど。
さて、アウターパネルの塗装に入ります。
ドア下部では他にも細かなキズからサビが発生している箇所もあるので下部全体を塗装することにします。
はい、この後の画像もありませんでした。
完成したところになります。
こうやって完成写真だけをみると、どんな修理をしたのかはわからないものです。このサイトでご紹介する修理は毎回仕上がりの画像をあまり詳しく掲載していません。どんな方法で、どのような修理をしたとしても、一応プロなので仕上がりを綺麗にすることはできます。手抜き作業という意味ではなくて、綺麗に見せる方法はあります、ですので、いくらきれいな完成写真を並べたところでその写真は修理の紹介としての意味がありません。おそらくこのサイトに辿り着く人が見たいのもそんな写真では無い様な気がします。
たぶん、今回の修理もサンドブラストで表面のサビを落として錆に蓋をしただけだとしても、見た目はこれと変らないと思いますし、それはそれで、補修としてはありだと思います。
そんなわけで、今回の修理も他の人が見ても違いは判りませんが、すくなくとも依頼してくださったお客様と、作業した私と、この記事を読んでくださった方には「内側のサビまで綺麗に取除いて修理した」と判ってもらえるだろうと思います。