サンバートラックのオーバーヒート
思い込みの整備は危険
水温警告灯の点滅
今回も一般整備のご紹介です。車はサンバートラック。症状は「エアコンのファンスイッチを入れると水温警告灯が点滅する」というものです。
朝、車に乗ってエアコンのスイッチを入れたところ警告灯が点滅するようになってしまった、スイッチをオフにすると警告灯は消えるのだけれども走ってよいものか心配になったのでちょっと見て欲しくて立ち寄ったということです。
車の状態を確認
まずは症状を確認します。
ファンスイッチを入れるとたしかに警告灯が点滅します、そしてスイッチを切ると消えます。
電気的なアレか?なんだろな?と考えながらスイッチを入れたり切ったりしながら考えていると、点滅していた警告灯が点灯しました。
ん?点灯?
ファンスイッチを切っても警告灯は点灯したままです。
ああー!やばいかも!!
ここでようやく事態を把握します、そっとエンジンを切って診断機を繋ぎ、おもむろに水温を確認してみます。
オーバーヒートしています。
関係ないO2センサーのデータもモニターしているあたりで慌てっぷりがうかがいしれます、水温は120℃になっていました。蒸気を噴出してもおかしくないほどの温度ですがエンジンは見た目穏やかな状態で、ラジエーターに至ってはさざなみすら起きていない静かな状態です。通常オーバーヒートでは冷却水がボコボコと沸騰しているものですが、現状はエンジン内が加圧されていて、ギリギリ均衡を保っているのでしょうか。
とにかくもうすこし温度が下がるまで待ちます。
なぜこうなった
エンジンが冷めるまでの間、水温の確認を怠った言い訳を考えてみると、次の3点が思いあたります。
- 水温計が備わっていない(警告灯のみ)
- ファンスイッチと連動して症状が出現した
- ラジエーターのアッパーホースが冷たかった。
最近は水温計が付いていない車は珍しくないので言い訳にはなりませんが、水温計が付いていればこんなミスは起こさなかったと思います。
つぎに、ファンスイッチと連動して症状が変化したことで電気的な異常ではないかと思い込んでしまいました。
あとは、ファンスイッチをカチャカチャ触りながら、試しにラジエーターキャップを空けてみましたが、冷却水は入っているしアッパーホースに手を伸ばし直接触ってみたもののホースは冷たいまま。お客様は朝異常に気づき立ち寄ったと言っていたのでまだエンジンは温まっていないのだろうと思い込みました。
思い込みだらけのダメな検査です、ここからは落ち着いてオーバーヒートの原因を探してみます。
オーバーヒートの原因
ある程度水温も下がってきたのでオーバーヒートの原因を探します。
オーバーヒートの原因として考えやすいのは次の4点ぐらいでしょうか
- 冷却水が足りない
- 電動ファンが回っていない
- サーモスタットが開かない
- ウォーターポンプが動かない
まずは冷却水の量を確認します。
ラジエータの上まで冷却水が入っていることはすでに確認していましたが、サンバーはリアエンジンなのでラジエーターとエンジンは長いパイプで繋がっています。この長い水路の途中にエアが溜まっているとエンジン内の冷却水が少なくなっていてもわかりません。冷却水の経路内のエア抜きからやることにしましょう。
サンバーには3箇所のエア抜きプラグがついているので順番にプラグをあけてエアーを抜きます。ヒーターコア、ラジエーターのプラグは異常なしですが、エンジン側のエア抜きプラグを外すと蒸気が噴出してきました。
サンバーの冷却水のエア抜き
エンジン側にエアーが入っていることがわかったのでエア抜きから行いたいと思いますが、サンバーはエア抜きが面倒な車です。エア抜きの手順ではプラグを開けたり閉めたりを何度か繰り返すのですが、作業を単純化するために水盛りの要領でエア抜きをします。
水盛りとは容器内の水面が容器の形に関わらず同じ高さになるパスカルの原理を利用したもので、建築現場で水平を取る場合に使われていた方法です。水盛りでの容器とは図にあるような水盛り管(水管)と呼ばれているただのチューブです。水管に水を入れると水管の形がどうなっていてもその両端では水面の高さが等しくなります。
現場では水管と水を使って離れた位置の水平を取るわけですが、サンバーの冷却水の水路を水管に見立てると水盛りのようになります。
水盛りの両端はチューブのまま開放されていますが、作業をやり易いようにラジエーター側に冷却水補充用のファンネルをつけます、エンジン側にも同じようにファンネルをつけても良いのですが、実際の作業ではサイフォン容器の方が便利なので片方の端はサイフォン容器にします、サイフォン容器に使うのは所謂ただのペットボトルです、この両端に繋いだファンネルとペットボトルの水面をみながら水をいれることでエア抜きを一度で終わらせます。
サイフォン容器を水盛りに使うときに注意するのは水面から水管を出さないこと、出してしまうと意味が無くなってしまします。
ラジエーター側のファンネルに水をたっぷり貯めたらエンジン側のペットボトルサイフォンを使って水を引き込みます、この様に水をエンジン側に引き込むことができるのでエンジン側はファンネルよりサイフォン方式が便利です。そしてサイフォン容器内の水管から泡が出なくなるまで水を補充して水面を安定させたらエンジンを始動してウォーターポンプを使って奥に溜まったエアーを抜きます。
減った冷却水
水面が安定するまでに継ぎ足した水の量は1.5リットルになりました。ファンネルやペットボトルに溜まった水を差し引いて考えると、減った冷却水は1リットル弱ということになります。ちなみにサンバーの冷却水の総量は6L程度。
どこかに冷却水が消えてしまっているので、次は漏れの検査が必要ですが、その前にせっかく水の補充が済んだのでそのままサーモスタットとウォーターポンプ、電動ファンの点検を先にすませることにします。
サーモスタットは診断機で水温の変化を見ながらラジエーター側に温まった水が廻ってくるのかを確認します。それと同時にエンジンの回転数に応じて水の動きが変化するのかを見ながらウォーターポンプの状態を判断します。しばらくエンジンを暖機して確認してみます、サーモスタットは開いているし、ウォーターポンプも動いているようです。
そのままさらに暖機を続けて電動ファンが廻るのを待ちます。
水温98度で電動ファンが回り始めて、92度程度まで下がるとファンが止まります。
最初、ラジエーターが温まっていなかったので、おそらくサーモスタットが開かないのだろうと想像していましたが、サーモスタット、ウォーターポンプ、電動ファンのどれも特に問題ないようです。
エア抜きと ひと通りの検査が終わったので、なぜ冷却水が減ったのか、その原因を探ります。
ラジエーターテスター
今までも暖機の間中、電動ファンが回るのを待ちながらエンジンルームやラジエーター廻りで冷却水が漏れたところはないのか見える範囲で探してみましたが、漏れているような箇所はありません。仮に水漏れがなく冷却水が減ったとなるとオーバーヒートが元凶になるので少々面倒です。
さて、ラジエーターテスターで加圧して漏れがないかを確認します。まず100kpa程度加圧してみますがテスターの針は直ぐには動かないようなのでそのまましばらく放置しておきます。
パイプの腐食
しばらくしてテスターの針を確認するとわずかに圧が下がっているようです。ラジエーターテスターでわずかな針のブレは単にテスターの装着ミスということもよくあるので再度テストしなおします。
少し圧を高めにして再度検査をしてみると、微量ながら漏れがあることを確認しました。画像の場所です。
ぱっと見て判らなかったのは、スペアタイヤとアンダーカバーに隠れていた為でした。
短いゴムホースの繋ぎ目から少しずつ漏れていたのですが。お客様も駐車場に冷却水が漏れたような痕もなく、水漏れには気づかなかったとおっしゃっていたので、本当に少しずつ漏れていたのでしょう。
ゴムホースは交換するとして、繋がるパイプの状態を確認してみると、パイプの両端でサビが出始めているようでした。パイプはサビを落として磨けば使えないこともないでしょうが、ゴムホースと同時に交換してしまいます。
部品待ち
仕事で使っている車なので直ぐに修理して欲しいということでしたが、部品の到着まで車をお預かりすることになりました。
パイプとゴムホースの交換
新品のパイプとゴムホースを取り付けました。
終了検査
部品の交換が終わったので、また冷却水を入れるところからやり直してサーモスタット、ウォーターポンプ、電動ファンの検査まで終わったらエンジンを停止して水温が下がるまで待ちます。
水温が下がるまでファンネルとペットボトルは装着したまま、水管が剥き出しにならないように充分に冷却水を補充してから放置します。
水温が気温と同じになったらラジエーターキャップとプラグを閉めて最後にひと通りの検査をして終了です。パイプの一部にサビがみられたので他の冷却水のパイプも気になるところではありますが、外観で異常の見えるパイプは見当たりません、検査をして現時点で問題がなければオーバーヒートの修理は終了ということになります。
そうそう、入庫時にファンスイッチと連動して警告灯が点滅したことが失敗の原因の一つでしたが、なぜそうなったのかおわかりになる方はいらっしゃいますでしょうか?自分なりに考えてエンジン内ではこうなっていたんだろうなという予想はありますが、あまり自信がないのでここには書かないでおきます。
今回は作業の進め方に危うい部分がありました、次は思い込みで整備することがないように気をつけます。